2023年11月1日

光の建築装飾をつくる主なる細部

【光の建築】ディテール(細部)

「かたち」を生み出し、作り上げるような、強い生成の力を持つ「ディテール(細部)」がある。この「主なる細部」は、春先に芽を出す植物の胚芽(はいが)のようなものだ。そこに成長の力が集中し、それが時と条件を得れば、急激に成長して、植物は大きく、そして複雑な形態に至る。建築にも、そのようなかたちの成長の力を内に秘めた「ディテール」がある。

「ディテール」が決定的な役割を果たしている空間もある。シトー会の修道院建築の、あの単純で幾何学的な石造りの空間に、その輝かしい光を与えているのは、その「窓の納まり」であり、これがシトー会の空間の「主なる細部」といえる。

全体を決める「主なる細部」

全体を決める「細部」がある。他のディテールがどうでもいい、というものではない。すべてのディテールは、それぞれの意味と役割があり、すべて大切である。しかし、「主なる細部」をはっきりと認識することは、建築の固有の独自の力を与えるための決め手になる。すなわち、細部のかたちのスタディは、同時に全体のかたちのスタディにほかならない。ディテールとは、細部をどのように納めるかと言う技術的なものより、ディテールが全体に係わることであり、全体を決めることだ。

ロマネスクの薄闇のようなほの暗い空間を囲む重厚な石のヴォールトの稜線の上に、最初のリブが控え目に姿を現す。そしてそれは少しずつ太くなり、大きくなり、数が増え、やがて全体に広がる。リブは、その成長の過程で構造的意味を豊かにし、施工的意味を獲得し、さらに空間を文節したり、外光を調整したりする多義的な意味を備えていく。多義的な意味を持ち得る細部だからこそ、全体を生成する力を持つのである。

決め手になる細部が見えるまで

自分の頭と目と手を精一杯使いつつ待たねばならない。しかしまた、やみくもに手を動かしていればいいという言うわけではない。いつ、何が来ても対応できるように、手と目と頭を自由に開放しておく必要がある。自由な状態に自らを保つためには、私は紙の上に鉛筆でスタディするのが一番良いと思っている。部分から全体へ、はっきりした線からあいまいな線へ、太い線からおぼろげな線へ、いつも瞬間に飛び移ることができるからだ。全体を示す部分が最も定着させやすい図面の種類は、矩計図(断面詳細図)である。主要な細部、主要な寸法、主要な素材、ときには基本の色の組み合わせまでが、このハードラインとフリーハンドを併用したラフな矩計図に盛り込める。矩計図をスタディすることで、全体を成す主なる細部が見えてくるのだ。

ル・トロネ修道院の窓。粗い石の壁。その分厚い壁にうがたれた丸アーチの開口。その中を通過する時、光は黄金色に変わって、内部空間を満たす存在となる。その空間の生成を可能にするのが、窓の細部に他ならない。ル・トロネ修道院は、フランス、南プロヴァンスにあるシトー会修道院建築の最高傑作である。

光が至高の装飾に変容する

南プロヴァンスのル・トロネ修道院へ向かったのは、東京に雪が積もる真冬の季節であった。長い間心惹かれていた修道院は、美しく淡い茶黄色の石肌をしていた。深い影で包まれた出入口の中に力強く輝く星のような光に誘われて聖堂の中に入ると、輝くような黄金の光が充満していたのだ。厚い壁体を、斜めに切って開かれた窓から入る光が、その分厚い壁の中を通り抜ける間に、斜めの窓枠にあたり、黄金色の光に変わっているのであった。

アーチの窓枠は、室内に二筋の溝が彫られているのみで、全く他の装飾はない。この二筋の溝に、室内に入り込んだ光があたって、鮮やかに光の縁飾りをつくり上げている。これは、もちろん、装飾とは言えない簡素なものである。

中庭の回廊の柱頭、ヴォールト天井の大寝室、食堂のあちこちで見られる装飾を切り捨てたその最後の幾何学が最高の装飾に変容する驚きは、今でも鮮明に覚えている。ル・トロネ修道院の石の純粋幾何学によって生まれた光と空気は、最も豊かな装飾なのだ。

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